リーンマニュファクチャリング(リーン生産)を実現する、日本で生まれた生産管理やカイゼン手法を紹介

Home > 生産スケジューラの昨今 > いま知っておくべき中国の製造業事情(4)

いま知っておくべき中国の製造業事情(4)

いま知っておくべき中国の製造業事情(4)
--「中国リーダー企業と "フォロワー"日系製造業の格差」

アスプローバ株式会社

副社長 兼 上海総経理 藤井賢一郎

 今回、筆者は世界ナンバーワンの生産実績を誇るサンテックパワー(太陽電池製造)のCIOである丘 立涛氏に会う機会を得ました。本稿の前半ではその概要を掲載いたします(通訳を介して会談したため、多少のニュアンスの違いはご勘弁ください)。

 加えて、これまで、当社製品をご利用いただいた日系製造業のリーダークラスの方々から、各社のサプライヤ(数百人クラスの工場)の現状をヒアリングしてきてほしいとの要望を受け、10社を超える工場をヒアリングした結果も本稿で報告させていただきたいと思います。

注:米国の調査会社アイサプライが2009年8月10日に発表した調査結果によると、
太陽光パネル生産量世界1位とされている。リンクは調査内容を報道したロイターの記事。

グローバル企業 サンテックパワーのIT世界戦略

 サンテックパワーのCIOである丘 立涛氏はオーストラリア国籍の華僑です。IT業界での優秀な業績が認められ、中国ERPワールドで「2006年度管理ソフトウェアTop10優秀マネージャー」を受賞、2009年度中国IDCおよびITマネージャワールドに「最も価値がある優秀CIO」として評価されたこともあります。オーストラリア、イギリスでの情報処理関連の資格を持ち、中国では工商管理マスターの資格も取得しています。

 サンテックパワーが世界中の工場のITシステムを統合するに当たり立てた基本的方針は、極めて明快なものでした。

 丘氏によると、まず、ものを作り利益を上げることを生業(なりわい)とする製造業において、財務会計システムの統一化は欠かせません。この部分を、グローバルに対応できる機能を持つERPで統一します。

 おのおの異なる生産方式を支援する生産管理システムに関しては、新工場以外、現状の構築済みのシステムを利用させています。

 コミュニケーションシステムについては、言語を英語に統一するのみで、現在各国で使用されているメールシステムは変更しないそうです。

 丘氏は、おそらくシステム変更などに伴う現場の混乱リスクを最小限に抑えることを目指していると思われます。これらの方針に従えば、当面の現場の混乱は防止できます。


 ただし、情報システム側としては、固有の既存システムと世界共通基盤のITシステムとの間には、インターフェイスを開発しなくてはなりませんが、製造業のITシステムはあくまでも本業の生産活動を支援する存在であり、サンテックパワーとしては、ITシステムによる製造現場の混乱をよしとしない考えも持っているようです。

 買収対象となった同業他社が持つ有益なシステムに関しては、それを全社に展開することもいとわないラディカルさも持ち合わせています。

 その1つの例として、同社のCRMシステムが挙げられるでしょう。


 筆者がサンテックパワー本社にお邪魔したときには、世界中に分散する同社のERPシステムを統括するために社内に用意されたデータセンタの前に、顧客からのクレーム管理システムがあり、毎時間、顧客からコールセンタに入るクレームの内容・対応の緊急度・対応の内容などがひと目で分かるようになっていました。

 これらは、日本や欧米の大手メーカーの多くが実現している取り組みですが、昨年(2009年)当社が生産スケジューラを導入した複数の大手中国民営企業の中では見られなかったものです。さらに、彼らは意欲的で、これらクレーム対応情報のデータベースをナレッジシステムへ昇華する取り組みも進んでいるそうです。

 今年(2010年)に入って、中国製造業による日本の製造業の買収が多数発表されましたが、いまとなっては「中国の企業=国営企業で顧客満足や営業活動にうとい企業風土である」という固定観念は捨て去らなくてはならないようです。

置いていかれる"フォロワー"日系企業

 サンテックパワーが目指すグローバルでの先進的なIT化の取り組みを見るにつけ、日本の「失われた10年」で消滅していった企業のことを思い浮かべます。それは中小企業にととまらず、大手企業も含めて枚挙にいとまがありませんが、彼らが消えていった要因は「環境の変化についていけなかったこと」に集約できるでしょう。

 「生き残るものは、強いものではなく、変化に対応できるものである」という言葉がありますが、この言葉は企業経営の世界でも自明の理論となってきているようです。

 前述の通り、筆者はいくつかの企業の依頼を受けて、その企業から見るとサプライヤの位置付けにある中国の日系工場を数多く訪問させていただきました。

 以前に言及したとおり、日系のトップ製造業は、中国内販にシフトしつつあります。中国の国内市場でビジネスを行うためには、現地のサプライヤからの安くて良質な部品の提供は必要不可欠の条件となってきています。


 また、当社の顧客企業にヒアリングしても最近は、自社の生産スケジュールが立てられても、必要資材が予定どおりに届かず、結果的に生産を遅らせなくてはならなくなり、販売の機会損失になっているという嘆きをよく聞きます。

 サプライヤへの生産システムの指導も欠かせませんが、日本企業に見られるような系列関係がない取引先であることもあり、なかなか思い通りにはいかないようです。そこで、筆者に問い合わせの連絡を寄せる顧客企業の方々は、当社のような第三者から実情を把握して良い提案をしてほしいという思いを持たれるようです。


 日系のサプライヤといっても、訪問前にその工場のことを知るためにWebページを調べてみると、各社とも日本では大手の製造業といわれる企業の方々です。そんな企業の生産システムがあまりにも「プア」なものであることに筆者は驚きました。

 1社2社ではなく、数百人規模の工場ではほとんどすべてに共通して、スタンドアロン構成のシステムしか存在していません。辛うじて、工場設立時に日本本社から移植したシステムが存在しても、まったく使われていないような状況です。こんなことでよいのでしょうか?


 筆者はシステム屋であるために、ともすればシステムの売り込みのためと、うがった目で見られるきらいがあったので、今回は一切製品の紹介などはせずに、お話のみを伺ったつもりです。

 ここでも、以前日本の中小製造業で議論された内容がまた論じ合われているのです。「生産システムの導入の前に現場改善のコンサルティングが必要」という決まり文句です。

 しかし、製造現場の離職率が高い中国の工場では、システム化による標準化をこそ急ぐべきなのです。個人に依存する日本的な製造改善は、作業者が変われば何も残らず、一からやり直しです。

 現在、Excelなどの表計算ソフトで行っているそれぞれの業務は、担当者が転職した場合、果たしてどうなるでしょうか?

 多くの転職者は引き継ぎなどといったしゃれたことはしていかない傾向にあるようです。中国では中国の現場に合わせた生産改善が不可欠だとわれわれは主張しています。

 もちろん、IT化にも問題がないとはいいません。一度カットオーバーしたシステムは、構築にかかわったシステム担当者が退職してしまうと引き継がれることもなく、止まってしまうことが多くあります。引き継ぎがままならないため、ゼロから運用定着とマニュアル作成を行う必要があり、そんなに多大な時間を掛けられないというのがその理由です。

 成長を続ける中国のトップ民営企業の方が、過去のIT化のしがらみがないだけに、時代に合った変身が可能となっているようです。これまで、居心地のよい環境の中で運営してきた日系中国工場は、いまこそビジネスモデルだけでなく、マネジメントのあり方、運営の在り方も改革しなければ、大胆な動きが得意な新興国企業の動きに付いていけない時代がくるでしょう。

自社の情報資産を見直そう

 筆者は、悲観論ばかりを論じようと意図しているわけではありません。実際の中国の最新の製造現場について共通的な所感を述べてきたつもりです。筆者は、せっかく生産方式や品質管理、生産品の開発設計で中国企業に一目置かれている日本の製造業が、優れた生産システムを導入しようと試みないのかが残念でなりません。

 中国の市場は日本と異なる、そんな理由は聞き飽きたというのが正直なところです。当社の上海法人の中では「中国市場だから」という理由を禁句としました。そして、営業活動などの管理形態を日本と同じものにしました。

 こうした取り組みを定着させるには、日本人総経理(社長)の強力なリーダーシップが不可欠です。筆者自身も当社上海支店の改革のために、2010年11月から上海支店に常駐するつもりで考えています。日本国内のシェアは落ちてはいないものの、これ以上の伸びは見込めません。今後のソフトウェア製造業としての生き残りを考えた場合、中国を含めたアジア市場での当社製品のシェア拡大は必須の条件だからです。

 日本国内の製造業は、国内工場をマザー工場とし、その優れた製品と生産技術を海外に輸出する体制を作りつつあります。今後は、ITシステムに関しても同様の方針が必要となるでしょう。場合によっては、サンテックパワーのように、国内のデータセンターにそれを集約し、海外工場は情報の入力だけにとどめ、システムの維持・運用を日本国内で一括管理する方法も考えられます。


 話を最初のサンテックパワーの内容に戻しましょう。

 今回会った丘氏は華僑で、これまでいくつものグローバル企業でその職務を果たしてきた人物です。流ちょうな英語を話すことができますが、中国・無錫市の本社で活動する際は中国語以外の言語を使う必要はないといいます。中国国内の有名大学を出た120人もの中国人スタッフで、十分にビジネスがまかなえるようになっているからです。

 彼は「ITシステムといっても使用するのは人間であり、システムに人間が使われてはならない。あくまでも品質が良く安価な製品をお客さまの望む土地で望むときに提供し、その後の保守サービスにおいても競合他社より高い評価を得るための人間活動が主体であり、ITシステムはそのための支援ツールにすぎない」といいます。

 彼らは、現在、中国国内の需要においてもナンバーワンとなるために、上海万博などで自らの技術をアピールしています。

 機会があれば、ぜひ読者の皆さんにも無錫のサンテックパワー本社を訪ねてみてほしいと思います。そこには、世界最大の太陽電池が設置されていて、サンテックパワーの工場自らが、その電力を利用して動いている姿があります。中国市場への製品提供のために、無錫地域においても、新設の広大な工場を建築中といいます。丘氏によれば、「われわれの仕事に終わりはない。ITの改善を継続することは、人間の体に例えれば、血管を通して新鮮な血液を体の末端まで到達させ続けることに等しく、その体の成長は続く」ということになります。

最後に

 これまで、当方のつたない文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。連載執筆中はいろいろなご意見や激励をいただきました。


 また、本文中でも触れましたが、日本に半分、中国に半分ずつ滞在する中でこの記事を執筆していた筆者も、上海に常駐することとなりました。また、今年、マレーシアに設立したアスプローバアジアの活動としても、中国からタイ、インドネシア、ベトナムなどの日系製造業の工場に伺う予定もあります。従って、これまで以上に、中国に関してはリアルタイムで実感のある報告ができることと思います。

 加えて、東南アジア各国の生産状況に関しても、皆さんに情報提供できると思います。またの機会をご期待ください。長い間、ご精読ありがととうございました。


 ご質問やご意見がございましたら、藤井 賢一郎(fujii[at]asprova.com)までお願いします。